世界は危機に遭遇している。私たちの総てが破滅に向かっている。地球が壊滅しかかっている。この危機や破滅や壊滅の中に私たち、人間、共に生きてきた愛する動物、植物、この風、この空、土、水、光が永久に閉ざされ続けるのか。何かが大きく間違っていたのだ。近代と共に蔓延した科学盲信、貨幣盲信、いや近代そのものの盲信がこの大きな錯誤を導いたのだ。
私たちはここに霊地熊野から真の人間主義を提唱する。人間は裸で母の体内から生れた。純正の空気と水と、母の乳で育てられた。今一度戻ろう、母の元へ。生れたままの無垢な姿で。人間は自由であり、平等であり、愛の器である。 霊地熊野は真の人間を生み、育て、慈しみを与えてくれる所である。熊野の光。熊野の水。熊野の風。岩に耳よせ声を聞こう。たぶの木のそよぎの語る往古の物語を聞こう。
そこに熊野大学が誕生する。
【解説】集英社『中上健次全集第15巻』、恒文社21『中上健次エッセイ撰集[青春・ボーダー篇]』に収録。熊野大学開講式に寄せた文。全集解題には「そのパンフレットなどに掲載されたと思われる」とあるが、実際には一枚のコピー紙、後にあちこちに転載されました。開講式挨拶の中で、中上健次さんが読み上げた。